生まれて初めての体験であった。
安楽ソファにゆったりくつろいでいる。目の前に巨大液晶画面。
「では、音楽と映像を流します」の声。
突然、背骨の中から男性コーラスが鳴り響く。驚いた。体の中から歌声が沸き上がる。
目の前、画面にはギリシャ調の建物。数人のコーラス・グループが高らかに歌っている。
テノールが、体の芯の脊髄に鳴り響く。これは、耳で聴いている音ではない。
はっきり、わかる。これは、脊髄が大音量の音に振動しているのだ……。これまでのオーディオ体験とは、まったく異なる「音響体験」であった。なるほど、脊髄で音を聴く……という言葉が納得できる。
つまり、一見、映像エンターティメントに見えながら、実は、脊髄中枢を振動マッサージする医療機器なのだ。
「どうです? いかがでしたか」
目の前でニッコリほほ笑む。西堀貞夫博士。76歳。ここは、都内五反田の研究室。
彼は、日本が世界に誇る発明家である。私が深々と身を静める音響チェアも博士の発明の1つだ。この発明は、耳からではなく、背骨に直接、音響を入れる。「映像再生装置」と椅子の「波動発生装置」はリンクしている。そして、脊髄を振動させる。まさに、ダイナミックな波動療法だ。博士は、これを「音響免疫療法」と名付けている。